第4章 ピアノレッスン~シド~
音楽祭のパンフレットを見ると、あちこちの広場や公園で音楽にちなんだイベントが開かれている。
地図を見ながら、街を気ままに歩くことにする。
心洗われるような澄んだ音色に足を止め、座り込んで聞き入ったり、途中で合唱団に誘われて一緒に歌ったりもした。
前回の視察とは視点が違ってて、もっと身近にウィルツの国の文化と歴史を感じられて―――。
あっという間に時間が経ち、私とルイは演奏会が行われるコンサートホールに、始まるギリギリに到着した。
私は、急いでドレスに着替え、ステージへと急ぐ。
「ルイ様が一緒だから大丈夫だろうとは思ったけど、さすがにちょっと焦ったよ」
ステージの袖で、ユーリが髪飾りを整えてくれながら、そう言う。
「ごめんね、あんまり楽しくて時間を忘れちゃってた」
私は、小さく舌を出して謝る。
「ま、なんとか間に合ったし。それに、マイン様が楽しかったなら良かった」
ユーリもニッコリと笑ってくれて、ほっとする。
「マイン、準備間に合った?ごめん、俺がもう少し時間気にしてれば………」
ルイが申し訳なさそうに言うのを遮って。
「ううん、謝らないで。こうして間に合ったんだから………でも、やっぱり少し早く戻って練習すれば良かったかも。私のせいで結局、全然合わせないまま、本番迎えちゃったし」
あれ以来、私とルイは一緒に練習をしていなかった。
だから、中途半端な演奏を披露する事になってしまうのが、引っかかる。
「大事なのは、上手に弾く事じゃない。心のこもった演奏ができるかどうか、だよ」
「………」
心のこもった演奏、か。
「けど………マインの今の表情を見ると、大丈夫そうだね」
その言葉に、ゆっくりと頷き返す。
「マインの好きなように、思いきり弾いて。俺は、うまく合わせるから」
「ルイ、ありがと」
ステージでは、演奏会の始まりを告げるアナウンスに続き、私とルイの名前がコールされる。
「いこうか」
「うん」
私とルイは、割れんばかりの観衆の拍手の中を、微笑み合いながらステージへと向かった―――。