第4章 ピアノレッスン~シド~
「………モー君、に」
「モー君?誰だ、そりゃ」
「ウィルツの、有名な作曲家。ヴォルフガング・アマデウス・モー・ツマラナイト………知ってる?」
「何を言われた?」
「え、何って………」
シドが何を聞こうとしているのか、何をこんなに焦っているのか、まったくわからなくて………。
「アイツに、何を聞いたんだ?」
「な、何も………あっ、えと、そうだ、この曲は、シド自身だからって………」
「それから?」
「それからって………それだけだよ」
トンッと、背中が、壁につく。
シドは、はっと我に返ったかのように息を吐き出すと、私から身体を離す。
「アイツが作曲したって事、か」
「シドをイメージして作ったって言いたかったんだと思うの。ねえ、シドは、モー君と知り合いなんだよね?」
「そんな奴、知らねえ」
「嘘。知り合いじゃなかったら、こんなふうに曲を作ったりしないよ。それに、モー君は………っ」
ダンッツ!!!
シドの拳は、私のすぐ横で振りかざされ………。
壁に大きく叩きつけられた―――。
ビクリッと、肩を震わせた。
「アイツに迫られたのか?それとも、お前から誘ったのか?」
………何を、言っているの?
頭の中が混乱している。
私には、わからない事だらけだ―――。
さっきから、シドは何を言っているんだろう。
何を聞きたいのだろう。
―――何を、勘違いしているのだろう………。