第4章 ピアノレッスン~シド~
~ルイとシド~
ピアノ室を出たルイは、ため息をつきながら、城の長い廊下を歩いていた。
目をまんまるにして、不思議そうに首を傾げていたマインの表情が、頭から離れない。
彼女は、何もわかっていない。
俺が教えるべきなのか?
それとも、他の誰かが―――。
………いや、知らない方がいいのかも。
ルイは、今度は、深いため息をつく。
こんな日は、いい事がない。
………なんとなく、嫌な予感がする。
そして、予感は的中した。
―――ガチャリ。
廊下の先にあるジルの部屋のドアが開き、中からシドが出てくる。
途端にルイは、顔をしかめる。
通りがかったルイと視線が合うと、シドは不敵な笑みを浮かべる―――。
「よお、お姫様とのレッスンはどうだ?順調か?」
「………」
そんなシドから視線を外し、歩調を緩めることなく、無言のまま歩いていく。
そのまま通り過ぎていくのかと思いきや………。
すぐ近くまで来ると、足を止め、いつになく鋭い目つきをしてシドを見ている。
―――知るべきなのは、シドだ。
「何か言いてえ事、あるみたいだな。なんだよ?」
「………シドが、弾くつもりだったって?」
「………あ?」
「この曲」
ルイが手にした楽譜に目を向けるが………。
「知らねえなあ」
笑みを崩さず、軽い口調で答える。
「シドに、この曲を弾いてほしいって、マインが言うのが………どうしてか、わかった気がする」
「は?何言ってんだ………」
楽譜をシドに押し付け………シドが思わずそれを受け取ると、さっさと歩き出す。
とっさの事に、呆気に取られる。
手に力を込めると………そこには、渡された楽譜が、そのままに存在している。
「………っ、おい、大事な楽譜、忘れてっぞ。いいのかよ?」
シドの言葉に耳も貸さず、去って行くルイ。
「おいっ!どうすんだよ、これ!」
「相っ変わらず、わけ分かんねえ奴だな」
そう呟くと………シドは、チッと舌打ちをしてルイの背中を見送った―――。