第4章 ピアノレッスン~シド~
シドが情報屋というのを、初めに知った。
でも、実はグランディエ大公の子息で。
ロイド・グランディエというのが、シドの名前で。
………それ以上の事は、知らない。
身分の高い彼が、なぜ情報屋という危険な仕事をしているのかも。
知ろうとしても、教えてはくれないだろうし。
シドに関しては、わからない事だらけだ。
目の前の彼は、薄笑いを浮かべながら、私を見ている。
昨日、ジルから渡された招待状をシドに見せながら、簡単に説明をする。
「来月、開催されるウィルツの音楽祭に招待されたの。それで、その特別ゲストとして、ピアノ演奏をして欲しいって」
「それはそれは、大層、名誉な事で。それで?」
クッ、と、喉の奥で笑いながら、丁寧な口調で、そうシドが返す。
「………っ、それで、その時、演奏する曲が、二重奏なの。だから………シドが一緒に弾いてくれたらって思って」
思いきって言う。
「話は、わかった」
「え、じゃあ………」
受けてくれるんだ………私は、顔を綻ばせる。
「そういうのは、他にも適任がいんだろ、泣き虫ぼっちゃんとか」
泣き虫ぼっちゃん………それって。
「………ルイのこと?」
「アイツなら、お前の頼み、喜んで聞いてくれんだろ………それとも、何か?俺じゃなきゃいけねえ理由でもある、とか?」
シドが立ち上がって、私との距離を詰める。
………ち、近い、よ。
ドキドキと脈打つ鼓動を抑えつつ、考えを巡らす。
モー君に言われた言葉を思い出す。
『これは、彼自身だから』
シドをイメージして作曲した………言い換えれば、これは、シドのための曲。
けど、それをシドに伝えるのはどうかと、思い迷う。
と。
いつの間にか、吐息が触れる距離に迫っているシド。
「どうしてもって言うなら、考えてやってもいいが………その代わり、報酬は高くつくぜ?」
そう言うと、私の顎を指ですくって………。
近づく、唇。
あと、ほんの少しで触れてしまう―――っ!
「………っ、やっ………!」
シドの手を振り払う。