第2章 ピアノレッスン~イケヴァン・モーツァルト~ 序章
私とモー君は、ずっとずっと、ピアノを弾き続けていた―――。
「ほんと、びっくりしたな」
大学からの帰り道、ユーリが言う。
「俺が声かけても、ピアノ弾き続けてるんだもん。2人ともすごい集中力だったよね」
あれから、私達は時間を忘れて夢中でピアノに向かっていて、迎えに来たユーリにも、まったく気づかずだったのだ。
「で?いつから作曲を始めたとか、出身はどこかとか、いろいろ聞けた?」
「あ!」
質問したい事が、山ほどあったはずなのに。
結局、何一つ聞けずじまいだった事に、今、気づく。
「ずーっと、ピアノのレッスンしてたわけ?」
「………そうみたい。失敗した」
「でも、あんな有名な人にレッスンしてもらうなんて光栄な事だもんね。マイン様が、有意義な時間を過ごせたんなら、いいんじゃない?」
ユーリが笑顔で、そう言う。
確かに。
どんな質問も、どんな答えも、どうでもいいと思える。
あのピアノ演奏の前では、すべてが無だ。
私は、もらった楽譜を抱え、強い決意を胸に抱く。
その後のウィルツ滞在期間中は、部屋にピアノを置いてもらい、合い間を見つけてはピアノに向かっていた。
とうとう、明日、ウィスタリアへ帰国する日となる。
どの視察もとても楽しく、勉強になるものばかりだった。
唯一の心残りは………。
たどたどしいながらも、弾けるようになったこの曲を、モー君に聴いてもらいたかったな。
―――もう一度、逢いたかった。
なんて。
※次ページより、情熱編<R18>となります