第2章 ピアノレッスン~イケヴァン・モーツァルト~ 序章
変って………。
「………っ、………モー君だって、人の事言えないくらい変だと………っと」
冷たい視線を向けるモー君に、私は、また、慌てて口を押さえる。
それでも………モー君の意外な一面を垣間見れたようで、少しだけ距離が近づいた気がして嬉しくなる。
そして、私は、思い切って、こう言う。
「モー君のピアノ、聴いてみたい」
返事の代わりに。
バーンッツ、と、鍵盤を叩くと―――。
力強いメロディーが、鍵盤の上で踊り始めた。
わ、すごい、すごい、すごい―――っ。
私の頭の中は、単純に、そう、繰り返している。
繊細な彼のイメージとはまったく違う、躍動感溢れる曲。
鍵盤が吸いつくかのような、流れるような指の動きに釘付けになってしまう。
生き生きとした中に、急展開して目まぐるしくテンポの変わっていく曲調にすっかり引き込まれてしまっていた。
ポロン―――。
最後の一音を奏で終わると、モー君は、荒い息をついた。
「今度は、何も言わないんだね」
「え」
私は、言葉も出ないほどに感動の渦に包まれていた。
モー君の言葉に、はっと我に返って。
「びっくりした………」
それだけ呟いて、他の言葉を探す。
けれど、どんな誉め言葉も当てはまらない気がして………。
「それだけ?」
モー君は、私の顔を下から覗き込む。
じっと、その瞳に見つめられていると、不思議な感情が沸き起こってくる………。
「………たい」
「え」
「私も、弾きたい」
私の中の何かは、ゆっくりと、でもしっかりと確実に起き上がり―――。
「私に教えて。弾きたい。モー君みたいに………ううん、勿論、モー君にはかなわないけど、私もそんなふうに人の心を動かす演奏をしてみたいの!」
湧き上がる思い。
何かを伝えるってこんなにも感動的なんだ。
こんなにも情熱的なんだ!
ああ、私も、少しでもこんな体験ができたら。
周りの人々を感動に導けたら、どんなに素晴らしいだろうか―――。