第11章 私立リアリン学園!2時間目~ノア~
なんにしても、古典に興味を持ってくれたことが嬉しくて、笑顔になる。
こういう時、先生になって良かったって実感する。
「見てもまた 逢ふ夜まれなる 夢のうちに やがてまぎるる 我が身ともがな」
ノアが、今度はさっきと違ってボソリと呟いたので、私は少し近づいてノアを覗き見る。
「それって、源氏物語五帖『若紫』の和歌だね」
源氏物語の主人公、光源氏は、幼くして母を亡くし、帝の後宮に新たに入った藤壷の宮が母に似ていると聞き、彼女を思い焦がれるようになり、父の後妻を愛するという道ならぬ恋に走る。
このように逢うこともままならないのなら、いっそ夢の中に消えてしまいたい―――。
源氏が、逢瀬のあとに藤壺の宮に向けて泣きながら詠んだ歌とされている。
「藤壺の宮って、マイン先生みたいじゃない?」
「え、私?なんで?」
藤壺の宮は身分の高い方ということもあるのか、原文でも訳文でも彼女について多く語られていないので人物像がつかみきれないのだけど。
藤壷の宮と私に似ているところがあるのだろうか?
「なんでって………んー、じゃ、俺が光源氏ね」
「あはっ、ノアが光源氏?」
私は、つい、大きな声で笑ってしまう。
おっとりした雰囲気が王子様的で、近いものがあるように思えなくもないけど………。
でも、やっぱり、恋多き光源氏のイメージとは、かけ離れてるかな。
「あのさー、俺、マイン先生に会ったことある」
「………は?」
唐突に。
今度は、そう言われて。
もしかして………話、飛んだ?