第1章 1
「最初が怖いのは誰でもおんなじや。ゆっくりでええねん。少しずつで。でも、始めなければいつまで経っても、このままや」
恵梨がゆっくりと俺に目を合わせた。
目にはうっすらと涙が溜まっている。
俺はそんな恵梨を安心させるように、にっこりと笑った。
「今日は俺がおる。ゆっくり、車通りが少ない道から行こうや」
恵梨はまだ心配そうだが、小さく頷いた。
「運転の仕方は覚えとるか?」
「い・・・一応・・・」
「ほんなら、まずは発進や」
多少ビクビクしながら運転席に座った恵梨は、それでもミラーや座席の調節、ハンドルの高さの調節など、それなりに発進前の準備を行った。
「・・・何や、覚えとるやんか」
「・・・はい」
恵梨の目は完全に据わっている。
俺はその様子を見て、思わず吹き出してしまった。
「・・・何ですか?」
「そんなガチガチにならんでもええやろ」
「・・・・・・shujiさんには分かりませんよ、私の気持ちなんて」
ふてくされたように恵梨が呟く。
俺は聞こえなかったふりをして、前を見ながら恵梨に指示を出した。
「んじゃあ、このまままっすぐ行って、あのコンビニのとこで左に曲がって」
はーい、とやはりふてくされたような返事をして、恵梨は車のキーを回してエンジンをかけた。
そして、ゆっくりと車は動き出した。