第1章 1
約15分後、服を着替えて軽く化粧をした恵梨が、大急ぎで玄関に出てきた。
そのまま俺の後ろ、後部座席に駆け寄り、ドアに手をかける。
「恵梨、乗る場所が違うで」
「え?」
「恵梨が乗るんは、こっち」
俺は、俺の隣の空いとる席を指差した。
────それは、運転席。
恵梨はピタリと体の動きを止めて、固まった。
それから徐々に目を見開き、弾かれたように首を横に振る。
「ムリです!!!!絶対!!ムリですって!!!!」
「何でや」
「こんな大きな車・・・しかもこれ、マニュアルじゃないですか!?」
「せやな。良い車やろ?それに恵梨、オートマ限定やないやろ?」
「え、まぁ、そうですけど・・・私、マニュアル車を最後に運転したのは、本試験の時なんですよ!!」
「ほんならええやん、これから練習していけば」
「その前に、shujiさんが死んじゃいますよ!!」
「大丈夫やろ」
「いや、ホントに命の保証は出来ませんから!!」
恵梨は助手席の窓に手をかけて、必死に訴えている。
けれど。
「───なぁ、恵梨」
「・・・はい」
「そんなんやったら、いつまで経っても車運転出来ひんぞ」
俺は助手席で腕を組みながら、恵梨に言う。
恵梨は泣きそうな顔で俺から目を逸らした。