第3章 夢見たこと
すると、黄ばんだ紙から文字がジワリと滲み出してきた。
【疑ワシキハ罰スル。】
「(おいおいおいおい_______。嘘だろ⁈)」
運が悪すぎると、ゼヴィウスは心の中で嘆いた。ああ、世に2冊と無い本が今から自分の前で消え去るのだ。ゼヴィウスは、義父がこの書斎に貴重な本を置く真の理由がわかったような気がした。
この時、黄ばんだページに黒く点が現れ始めた。ゼヴィウスは、この本が炭のように黒く脆くなって壊れていくのかと思い、窓を開けて放り投げてしまおうかと考えた。だが、証拠の隠滅としてはよろしく無い。そう考え直す。目を瞑り、指に力を込めて本が砕けてしまうかを確認する。
「…ありゃ?」
本の手触りは変化がなく、砕けもしない。ゼヴィウスは目を開けた。そこには、
【ダガ、ミカエル殿ノ血族ニ免ジテ、許ソウデハナイカ。】
という文字が刻まれた、黄ばんだページがあった。
ゼヴィウスは、安堵のため息を漏らした。このため息が、自分がミカエルの血を引いていたと分かったからなのか、本が失われなかったからなのか。いや、両方だろう。
安堵していたのも束の間、けたたましい音が鳴り響く。ミカエルの帰りを知らせる鐘だ。こうしてはいられない、急いでこの書斎から離れなければ。ゼヴィウスは、本を手に持ったまま扉へと向かい、何事もなかったかのようにしれっと書斎から出てきた。
帰る途中、誰にも遭遇しなかった。俺はなんて幸運なのだろうと、ゼヴィウス思わざるをえなかった。