第3章 夢見たこと
いつもゼヴィウスの周りを取り囲む女の子達を口説く時のような、甘ったるい口説き文句は、声帯の辺りに貼り付いてしまって出てこない。
ゼヴィウスが何も言わないでいると、少女がその形の整った小さめであろう口で言葉を紡いだ。
「知りたいんだ?それなら少しだけ教えてあげる。確かに私は今、あなたの顔が見えてる。でも、起きた時にはこの脳みそは何も覚えてないんだよ。」
少女は淡々と、それでいて悲しそうに言葉を紡いだ。少女の紡いだ言葉はゼヴィウスの耳に響いて、一瞬だけ思考を停止させる。
「…っ!き、君は、実在するのか?」
ゼヴィウスはどもりながら少女に問う。
「(彼女は、自分の夢の中だけの存在じゃないのか⁈)」
狼狽するゼヴィウスを見ていた少女は言った。
「…実在するよ。」
その声は酷く小さかった。ゼヴィウスはその声を辛うじて聞き取った。少女に注意を向けていなかったら、気づかなかったことだろう。ゼヴィウスはさっきの言葉を胸の内で反芻する。
そして、少女をもう1度みつめて、はっと息を呑んで目を逸らした。
"実在する"たったこれだけの言葉で、今まで空の上でふらりと漂う雲のような存在だと感じていた少女が、こんなにも生々しく見えるものなのだろうか。湖水のせいで、ピタリと肌に貼り付いたワンピースから、肌が透けて見える。雫の滴る指先に今すぐ口付けたいと思ってしまったゼヴィウス。高揚感、色欲、独占欲…欲望が混ざり合い、胸を焦がし、胸を苦しく締め付ける。
「(嗚呼…、君が欲しい。今すぐに触れて、抱き締めて、口付けて、君の香をに包まれたいし、俺の香で包みたい。)」
ゼヴィウスの欲望は、濁流の如く留めなく押し寄せる。君が欲しい、と心の中の本能は懇願し、己が身体に指示を出す。ゼヴィウスは少女に震える手を伸ばした。