第1章 ドントタッチミー
2人で住むには少し手狭な1DK
決め手はキッチンの広さだった
L字型の綺麗な作りでキッチンカウンターで食べることが出来る
そのキッチンカウンターには両手で頬杖をついて
異常にニコニコしているお兄ちゃんがいるわけなんだが
『……な、なに?』
あまりの視線に耐えられず聞いてみる
「ん?いやー、なんかこうしてると寧々と結婚したみたいだな〜って」
『へ、へぇ』
想像の斜め上を行く兄の返事になんて返したらいいか分からず、
寧々は聞かなかったことにしようと視線を鍋に戻した。
『あ、そういえば、ヒーロー科はどうだった?』
話を変えるついでに質問すると、
物間は紅茶を口につけながら斜め上を見る
「あー、初日から運動能力測定
片っ端から成績いいやつの能力コピーしたら一位になった」
『その、クラスの人の中に火とか出せる人とか…いたりした?』
「ん?いや、居なかったな」
何で?と聞かれて
『いや、ヒーロー科だからそういう強個性いるのかなーって』
と誤魔化す
「まぁ個性使いたい放題の運動能力テストだったから記録はぶっ飛んでたよ」
その後も色々話してくれる兄にあいづちは打つものも
その言葉は、寧々の耳にほとんど入らない
(頑張って雄英高校に入れるように勉強したんだけどなぁ…
やっぱり年齢がちがうのか、
それともヒーローをあきらめたのか
他の学校へ行ったのか…)
はじめてキスをした初恋の彼は、
火を出せる個性だったと思うのだ
言ってしまえば、それだけしか手がかりがない
寧々は
物間に気づかれないように、小さくため息をはいた