第44章 アバウトミー
いつもより重く感じるドアノブを引くと
白い艶々とした毛並みの校長先生と、
対して黒い髪を束ね、いつもとは違うスーツ姿の相澤先生
そして、我がクラスの担任先生がソファーで母親と向き合い座っていた。
「やぁ!」
手を振る校長に、寧々は深々と頭を下げた。
『この度は、私のせいでこのような騒動を起こし、大変申し訳ありません…』
「いや、君のせいじゃないだろ?
それに、これは雄英にとっては悪い話じゃないんだ。
まぁ座りなよ、ここは君の家なんだから、リラックスリラックス」
HAHAHA!と笑う校長に向き合いの席に座ると
少しして紅茶が用意された。
いつも気に入って飲んでいる銘柄の香りがしたが
口をつける気も起きず、湯気がゆらゆらと登っていくのを眺めていた。
「学校としましては、娘さんにはヒーロー科への編入を以前から勧めてはいたんですがね」
校長先生は、にこやかな笑顔のまま母親に話をする。
「え…そうなんですか?」
母親の視線は、寧々に注がれ、寧々はバツが悪そうに俯いた。
『…でも、私じゃ……』
言いたいことは沢山あった…
ヒーローになりたくない…。脚光なんて欲しくない。
職業訓練で、人前に出て、
そしてヒーロー殺しとの対峙や勝己の救出で分かった…。
目立ちたくない…戦いたくない…
個性なんて………いらない
でも、そんな反社会的な言葉
言えない。
普通科のみんなを見てわかった。
みんな個性に取り憑かれている。
強個性に憧れ、妬み…渇望して……
己の個性を恨み、蔑んでいる。
普通に笑いあってるはずの友達が、ヒーロー科を見かける度に目を座らせて舌打ちをする。
そんな環境の中で分かったことは…
ーーーヒーローになりたくない人なんて存在してはいけない
この、新しい個性社会での、絶対的ルールだ。