第44章 アバウトミー
存在してはいけない「わたし」は
この社会で生きていくために擬態する…
「ヒーローになりたいけど、なれないわたし」
「没個性で、なんの取り柄もない平凡なわたし」
擬態するのは簡単なことだった。
だって、それは私の望んだ姿。
こんな自分だったらいいなって云う…平凡な女の子。
時間無制限のコピー個性なんていらない
没人間の私にふさわしい没個性になりたい…
卑怯で、弱い…他人なんて守れない。
私には……私は……
「まぁ、そうすぐに考えなくてもいい」
ゆっくりと言ったのは相澤先生だった。
話したことは3回くらいしかないけれど、いつも気だるげな雰囲気の先生だ。
「だがね、口付前も言ったが、君はかなり自己評価が低い。
もっと自分には可能性がある。ヒーローにだって、なりたいんだろう?
自信がないならこれからつければいいじゃないか」
『…ヒーロー……なりた…い?』
ヒュッと喉が鳴った。
壊れた笛みたいな音で、小さく息を飲み込んだ音だった。
『私…別に…ヒーローになりたくて…雄英に来たんじゃ……』
精一杯だった
この表現が、精一杯の、寧々の抵抗だった。
人になんと思われようと、この場を納めないといけない…なりたくないって言えないけれど、なりたいって思われているのなら大問題だから
せめてそこだけでも、否定したかった。
それなのに
「でももう、君には遅かれ早かれ
ヒーローになる選択肢しかないけどね」
そんな、言葉の刃が私を割いた。
ゆっくりと持ち上げた目線は、校長先生の笑顔に向く。
左目の傷は、深くて、古そうだった。
「君が、それだけの強個性を持ってる人間だって
今や日本中が知ってるんだよ?
普通の就職ができると思うのかい?
どこを受けても「君あのコピーの子だよね、なんでヒーローにならなかったの?」って嫌味を言われ続けるんだろうね。
それでもいいなら、止めないけどさ」
『あ……………』
没個性の、強個性に対する嫉妬や妬みは
何も雄英に限ったことではない…。
その現実を突きつけられて、寧々は目の前が真っ暗になった。
何も言えず口を開閉するだけの寧々を見た三人の教師は
これ以上何を言っても聞こえないだろうと判断し、立ち上がる。