第44章 アバウトミー
「私も、結婚するまではプロヒーローだったから。
ヒーロー名はチックタック。さすがに結婚してから、バンバン他人とキスして時間を止めるわけにもいかないから、
ヒーローだった期間は短いけどね。」
「そうなんすか…」
なにも物言わぬ爆豪の代わりに返事をしたのは切島だった。
「でも、あの子があまりになりたがらないから、今までほっておいたけど。
これを期にあの個性を使うようになるならなるで、私はいいと思ってるのよ。」
私の言うこと聞かなかったのは、たぶん初めてじゃないかしらねぇ…と母親は首をかしげながら物間に確認し、物間も「そうだね」と同意をした。
兄である物間もまた、ヒーロー科に入って欲しいと言う思いがあった。ずっとそばで見守りたい…社会人になって同じ事務所のサイドキックになり、2人で事務所を構えるのが夢だったくらいだ。
「まぁ、早く会ってあげて
爆豪くんが来てくれたってなったらあの子も喜ぶだろうから。」
飲み込めない思いを胸に、ロビーを抜け、また長い廊下を歩いた先に案内をされる。
「こちらがお嬢様のお部屋です」
少し落ち込んでいそうな使用人の女がノックをすると、白いドアから出て来たのは寧々ではなく轟だった。
「……」
「……」
2人は睨み合った後、爆豪は入れ違うように部屋に入り、轟はなにも言わず静かに部屋を出た。
切島は轟に頭を下げる。
「ありがとな、教えてくれて…」
「いや…いい……大丈夫だ」
頭を上げてくれ…と轟が言うと、切島はもう一度、ありがとなと言った。
そこに…部屋を出た轟を待ち構えていたかのように、アラタがひらひらと手を振る。
「うわ…すげぇイケメン…あいつ誰?」
驚く霧島に、轟は「寧々の幼馴染だ」とだけ説明をして
「悪りぃ、あいつと話してくるから、切島はホールにでも行っててくれ」
と、その場を後にした。