第44章 アバウトミー
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コールが鳴るスマートフォンを轟は拾い上げ、訝しげに見つめる。
腕の中の寧々が顔を持ち上げて轟を見つめると、轟は寧々と視線を合わせた。
「切島から電話だ」
『出ないの?』
「いや…出る、ちょっと待ってろ」
轟は寧々を残して部屋を後にすると、廊下を少し進んだところで応答ボタンを押した。
《あ…轟!?悪ぃ突然…。
切島なんだけどさ》
「いや、いい
どうかしたか?」
受話器越しにザワザワと人の行き交う音がする。
駅か街中にいるような、そんな音だ。
《あー…ニュースとか見たりしたか?》
「あぁ、見た」
《そっか…寧々ちゃん、大丈夫か?》
「最初は取り乱してたが、今はだいぶ落ち着いてる」
《それならよかった。自分の個性、あんな公にされたらビビるよな。しかも寧々ちゃん恥ずかしがってたし…
っと…悪りぃ…、あのさ、寧々ちゃんの家の住所
教えてくれねぇか?》
轟はやっぱりな、とため息を吐く。
【切島】とスマホが着信を知らせた時からそうだと思っていた。
「爆豪か?」
《……あぁ。
そっちに行くって聞かねぇから、
頼む!教えてやってくれ》
轟は一度耳元からスマホを離して目を瞑った。
爆豪がいない今、寧々を慰められるのは自分だけだ。
恋敵に邪魔をされたくないし、個性がわかった今、爆豪は寧々を好きであることになんの後ろめたさも持っていない。
当然、愛を伝えるのだろう。
(でも、個性がキスミーだから好きになった…そう思うよな、寧々は。)
個性が明らかになった今、告げたとしても今更だと思うだろう。
そうすれば……そうすれば、自分の愛の方が上だと、寧々は思ってくれるのではないか。
「…何も心配することはねぇな」
寧々を一番好きなのは自分だと言う自信。
それが背中を後押しして、轟は切島に住所を告げた。
だが彼は知らない。
普通科の教室で、爆豪が寧々に告げた本心を。
彼は知ることがないまま、カードを切ってしまったのだった