第44章 アバウトミー
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「最近地上波おもしろくなーい!」
芦戸がチャンネルを回すと、蛙吹は新聞のテレビ欄を開いた。
「そうね、何かいいのはないかしら」
音が鳴る前に移り変わっていくテレビ画面。
「暇ならトランプするべ」
と小箱を降る瀬呂に、上鳴と切島は飛びついた
「うわー久しぶりだな、トランプとか」
「なにやる?ベタにババ抜き?」
そんないつも通りの休日を過ごしていた共同スペースに、割と大きめなドアの開閉音が響いた。
いかにも機嫌の悪そうな、爆豪(13)がこちらのことなど微塵も興味がなさそうに、共同スペースを突っ切っていく。
「な、爆豪、トランプしようぜ」
切島が爆豪に向かって大きく手を振りさそったのだが、爆豪は一瞥もすることなく「しねぇ」と吐き捨て、エレベーターに乗ろうとした
ちょうどその時だった。
《では、口付寧々さんの個性は
時間無制限のコピーということですか?》
聞き慣れた名前に立ち止まる足。
チャンネルを変えた芦戸が「へ………」と気の抜けた声を出した。
爆豪は、テレビの見える場所まで駆け寄ると、テレビ画面いっぱいに映る女の顔を凝視する。
(コピー……?寧々…個性?)
混乱する頭の中でこの3つの言葉が、爆豪を縛った。
テレビの中の女は、似合ってもいない口紅を塗った口を釣り上げて笑う。
熟しすぎた実が割れて、ぐじゃっと音を立てたような笑い方に
爆豪は吐き気と目眩がした。
《はい、彼女は隠していますが
本当の個性は【キスミー】、キスをすれば誰のどんな個性でも無限に使えるというチート個性なんです!》
「キス…ミー」
つぶやく爆豪に、クラスメイトの視線が集まった。