第1章 ドントタッチミー
名残惜しそうに手を振る兄を横目に
寧々は普通科の校舎に向かい
クラスを確認して自分の席につく
隣を見ると、ふてぶてしい顔をした男の子と目が合った
(寝不足…?なのかな?)
目の下にはクマがくっきりと入っていて
見るからに顔色が芳しくない。
『あ、は、はじめまして…』
軽く頭を下げて挨拶すると
「あぁ」
と口数は少ないが、会釈をかえす紫髪の男。
『私、口付寧々
よろしくね』
「…心操人使、よろしく」
少し気まずい自己紹介を終えると、
待ってたかのようにクラスメイトの女の子が寧々に話しかけようと集まって来た。
初日は特に代わり映えなく終わり、
学校からの帰路を歩いていく。
(何人かお友達も出来たし、なかなかいいスタートだったなぁ)
ボンヤリと今日の出来事を思い出すと、本当にまずまずのスタートだったように思える。
(自己紹介だけは気を付けてよかった…)
自己紹介では
出身中学、名前、個性を言うことになったのだが、
『キスミー』のことは家族以外知らない。
表向きには『コピー』と言っているのだ
『個性はコピーですが、うまくコントロール出来ないので、あまり使い物になりません』
そう言っておけば当たり障りない
強個性はヒーロー科に行くべきというのが、この世界の常だから
彼女のような強個性が普通科にいるとなると、やっかみの対象になるだろう。
(それより、隣の席のクマが酷い…心操くん?
「個性は洗脳です」
って言ってたなぁ…)
その瞬間、クラスがざわついたのを覚えている
「えー怖いー」「ヴィラン向きだよね…」などと聞こえそうな聞こえなさそうなコソコソ話が聞こえてきた
私でも聞こえるんだから心操くんにも聞こえてるよね…
無表情な彼の少し寂しそうに見えた姿がいたたまれない