第37章 ファイトミー
「そんな面してるてめぇを負かしても
いい気分はしねぇな」
「……」
据わった瞳はこちらを向くことがない
街中を模した演習場の中に向かい合う男は
生まれて初めて「適わねぇんじゃねぇか」って思わされた野郎だ。
「チッ…無視かよ」
ガコン、と篭手が鳴る
この音はまだニトロが溜まってねぇ証拠だ
こいつが左を使ってくれりゃあ汗もでんだろうが
馴れ合いすぎた…と思う。
でも、馴れ合ってたらキリがねぇ
「あん時みたいに、手ェ抜いたら殺す」
そう言って踏み込んだ瞬間
あいつの光のねぇ瞳がやっとこちらを向いた
「寧々が、付けたのか…それ」
小さく
でもはっきりと聞こえたその声の
感情はどこにあんだよ。
怒りなのか、哀しさなのか、嫉妬なのか
「っ!!」
とっさに地を蹴って爆風で空へと飛び上がる
と同時に、感情の表れかはわからないが
街は一瞬で、氷に包まれた
「っ…一瞬で、これか!!」
コンマ1秒でも遅れていれば、足を取られていただろう
体育祭以降
林間合宿での訓練、仮免講習
個性を伸ばす特訓は毎日続けている。
これだけの広さを氷漬けにしたと言うのに、
こいつの体にはまだ霜はおりていない。
このまま空中に逃げていた方が安全そうだ、
そう判断してもう一度爆風をあげたのだが
轟は左手を振り上げると、自分ごと氷でできた橋で空中に登ってくる
「…答えろ、爆豪」
「…クソ…!てめぇはなんで寧々が怒ったか分かってねぇのかよ」
屋上の上に立つと、向かいに降り立った轟はゆらりと態勢を整えて爆豪を見据えた。
「…わからねぇ…何も」
「なら、わからねぇままで居ろや
テメェが悩んでる間に
俺があいつを貰う」
爆豪の指がツッ…と肩の歯型に這う
それを見た轟の緑色の瞳にチリリッ火の粉が舞った
その火の粉が、着火剤になったかのように左半分が炎に包まれていく。
2人の立つビルの周りには、豪雨が降ったかのような
地を打つ水の音が響いた
「はは…あちぃな」
爆豪の口角は片方だけ釣り上げたように上がる
歯茎まで見せるように笑うとちゃぽん、と籠手が音を立てた