第36章 プルミー
一人残された爆豪はゆっくりと立ち上がり、寧々の部屋に向かう。
最近の寧々は、部屋に着くなり
まるで現実から逃避するように眠りにつくから、多分今も寝ているのだろう。
起こさないようにドアを開けると、
寧々は1人、ぼんやりとテレビを見ながらマグカップをきぎっていた
遅れてこちらを向くと、ヘラっと笑う
『勝己、遅かったね』
たしか、便所に行くと言って出ていったのだった
寧々の部屋を出て、針は時計の4分の1ほど進んでいる
何も言わずに隣に座ると
小さなポットを傾けて、俺用のマグカップにとくとくと注いだ
ふわりと香る牛乳と紅茶の香り
こいつが入れるミルクティーはいつも、
牛乳百パーセントで、充分蒸らされていて濃厚だ。
こいつの紅茶を飲むようになって、市販のものを飲まなくなった…
否、飲めなくなった。
こんな、なんでもない時間が当たり前のようにすぎると
時々、
俺と寧々は付き合ってんじゃねえかって思う
寧々は、もう本当は俺を選んでんじゃねぇかって…
でもときどき見せる表情はどこか上の空で
心ここに在らず、な雰囲気は
俺をやけに不安にさせた。
そういう時
あいつの事考えてんじゃねえのか
今、「俺にしろ」と言ったら
寧々はうなずくんだろうか
それとも、拒絶すんだろうか
教室で、お互い目も合わせてねぇし
轟が何考えてんのかはわかんねぇけど
あからさまにイライラしてんのは伝わる。
実技演習とか見りゃわかる
俺じゃなくても、だ。
飲み終えたマグカップの熱がどんどん冷たくなって行くことに
なぜか焦燥感が芽生えた。
俺は…
「俺にどうして欲しいんだ
これ以上、
どうやって愛したらいんだよ」
髪を撫でたつもりが、そのまま抱き倒していた。
寧々は、返答に困ったような顔をして
眉をひそめたが
別に返事が欲しいわけじゃねぇ
足りねぇなら、追加して愛せばいいだけだ。