第35章 シェイクミー
「……」
『……』
どれくらい抱きしめられていたのだろう
夕暮れは沈み、街灯がチラチラと付き始めた。
アラタの軽い息遣いだけが聞こえる。
このハグになんの意味があるのかは分からない。
それでも拒絶してはいけないと
なぜか思ってしまう。
それほどの、張り詰めた雰囲気につばを飲み込んだ。
アラタが、なにか言おうとしている
雰囲気だけで分かるほどに、
私たちの付き合いは長い。
そして、私はその言葉を聞きたくないと思ってしまっている
アラタの言葉は、いつも重くて
胸に刺さることばかりだから。
「寧々…」
来た…、と目を瞑る
聞きたくない
けれど聞きたくなる
彼の言葉はいつも的確だから
もしかしたら、今の迷宮から救い出してくれる言葉をくれるのかもと、ほんの少しの期待が揺れる
「やっぱり、俺とオーストラリアに行こう
俺と、ヨリを戻そ?」
その問の答えは、簡単だ
アラタも、私がそう答えると知ってて聞いていると思うから
ゆっくりと首を振る
横に、3回
アラタはふぅ…とため息を吐いた
その息が耳をかすめていく
「好きなの?あいつらのこと…」
『うん……』
「どっちが好き?」
『わかんない…
どっちも、好き……
焦凍も勝己も…どっちも欲しいの……
最低だって思うなら笑っていいよ、自分でもわかってるから』
「笑わないよ
でもさ、」
アラタの温もりが体を離れて
視線が絡む
「どっちも、欲しいって
どっちも欲しくないのと同じじゃない?」