第34章 ゲットミー
林間学校中は夏休み中だったし
ヒーロー殺しの一件は闇に葬られたから
寧々の個性は未だ、クラスメイトには隠されたままだ。
「で、あるからして…
個性出現後過熱した個性暴走は、善良な市民の勇気によって抑えられ……」
先生の説明を聞きながら教科書を眺める
ヒーローの歴史や、存在意義
そんなもの今更言われなくてもわかっている。
ページをめくるたびに重くなっていく心
なんでみんな、そんなにヒーローになりたいの?
そっと視線をクラスに移せば
みんなギラギラした目で黒板を見つめている。
入学前は普通科だからって舐めていた。
普通科の方が、ヒーローへの憧れが強い
なれないと分かっているのに、ヒーロー科が馬人参のように目の前に釣り下がっているのだから無理もない。
私も、アラタみたいに
海外に逃げればよかった。
特に、オーストラリアはヒーロー免許が取りやすく、わざわざヒーローの学校を卒業しなくても、自由業と同じ枠で働ける。
コンビニ店員や、教師をしながらヒーローといった人も多いらしい。
だから、オーストラリアには、普通の学校が主流で
強個性だからといってヒーロー科に入学するという考えは少ないという
アラタは、子供の頃から、その個性の強さ故に
「絶対ヒーロー科にはいるんだろうな」と周りに言われていた。
私もそうだと思っていたし…
そんな彼が、オーストラリア留学をすると知ったのは
出国の前々日。
突然私の家に来て
「明後日からオーストラリアに行くから」と
言い出した時は驚いた。
恋人と呼ぶにはあまりに名ばかりな関係だった私たち
私は雄英高校受験を理由に、アラタを避けていたから…
彼がどんな思いで海外に渡ったのかは知らない
それでも
並半端な覚悟で渡豪した訳では無いと言うのだけはわかる。
寧々は授業を半分聞き流しながら、また新しいページをめくった