第33章 トラップミー
思わずスマホを耳元から離す
偽りの思想で満たされていたはずの脳内が
どんどん水位を下げて行くようだ
『なん…で…』
「なんでって…何となく?そうだろうなって思っただけだよ
かの雄英高校ヒーロー科のツートップだもんね
この間あった時に思ったけど、あの二人、外見もいいしヒーローになったらすごく人気出ると思うよ」
『………』
「でも、寧々ってそういうの苦手だろ?」
この男は全てお見通しみたい
きっとこの電話の向こうで、いつも通り、
見てくれの良い笑顔で雑誌なんか読んでいるのだろう
「俺はさ、ぜったいあの二人には勝てないと思う
けど、劣勢だからこそ、言えることがある
俺は、みんなのヒーローにはなれない
けどね、
寧々の、寧々だけの王子様になりたい」
耳から注がれる呪いの言葉が
私の心の中に空いた穴の中にこぼれ落ちていく
ここにきて、このタイミングで渡された逃げ道
きっとそちらに進めば、こんな劣等感も感じなくて済むのだろう
でも……
『でも、アラタだってすごくモテるんだし
モテることだけで言えば、たぶん2人よりもすごいよ…
やっぱり、そんな「俺はモテないよ」
被せるように言葉が返ってくるけれど
この人は何を言っているんだろう
私は正直彼ほどモテる人を見たことがない。
それなのに
「俺は全然モテない…
だって、自分の好きな女から、
一度だって好きだって言ってもらったことないんだからさ…」
『………』
「俺達、きっとお似合いのカップルになれるよ」
『…ごめん、眠いから切るね…』
それだけ言って、返事も待たずに着信を切り
ベッドに倒れこんだ
呪いの言葉が木霊する
『お似合い…か……』
小さく呟いて瞳を閉じた