第32章 カースミー
日直だった寧々は
職員室にノートを届けてから学食に向かうところだった
『遅くなっちゃったな…』
さきとゆきちゃんはもう食べ終わってしまっただろうか
少し早足にあるいていたせいで、
角を曲がったところで人にぶつかってしまう
『わ、ごめんなさい……
って…勝己かぁ』
ホッした表情でぶつかった額をなでる
『胸板硬すぎるね、少し痛い
勝己は?痛くなかった?』
爆豪は、その問に返事を返すことはなく
えへへ、と笑う彼女の手を掴み
ドン、と壁に押しやった
『……勝己?』
「キスさせろ」
『は!?』
突然の申し出に、寧々は大きく目を開き
顔を赤らめて逸らす
『な、なんで…ヤダよ
学校だよ?』
「お前が……俺のもんだって叫びてぇ
それができねぇなら、
せめてキスくらいさせろ」
『………』
ゆっくり重なった唇に、寧々は胸がしめつけられそうになる
こんな時に限って優しいキスをするのは反則だ
いつもみたいに噛み付くみたいにしてくれればいいのに
なんでったって私みたいな最低女に
こんなに優しく、慈しむみたいなキスをしてくれるんだろう
唇が離れた時、
爆豪は、寧々の頬を撫で思う
(やっぱり、こいつ以外の女に…優しくしようって思えねぇな)
不安がない訳がない
轟の事も、この間の幼馴染の事も
そしてさっきみたいに、突き付けられる現実も
全部不安の種だ
それでも離れられない、離れる方が、振り回されるより辛い
もう一度軽く触れるだけの口づけを落として
頭をぐしゃぐしゃっと撫でてから
体を離す
寧々は撫でられたところを手で押さえて
下唇を噛んだ
去り際の、爆豪にあんな顔をさせた事を
不甲斐ないと感じて
最近癖になっている、大きなため息を吐いた