第32章 カースミー
さきは去っていく轟の背を見送ってから
ゆきの部屋に向かった
「って感じでさー…なんか、不憫だったよ…」
「そっかぁ…」
さっきの出来事をゆきに話すと
ゆきは小説から顔を上げてため息を吐いた
「普通、轟さんと、爆豪さんだったら
迷うことなく轟さんにするけど」
「やっぱ運命の人ってのが引っかかってるのかな」
「どうだろうね」
そんな会話の翌日の昼、
さきとゆきは、学食で蕎麦をすする轟に声をかけていた
「今、少しいいかな?」
「あぁ」
「寧々、今日の放課後に
リカバリーガールのところ行く予定なんだ
もしよかったら、迎えに行ってあげてくれる?
私たちが行く予定だったんだけど…予定入って」
さきがそういうと、ゆきが「6時に終わるらしいよ」と付け加えた
轟は、「わかった」とだけ答えると
さきとゆきは「またねー」と轟に手を振って自分たちの席に戻っていく
そんな、寧々の友人と轟が会話しているのを見かけた上鳴は、急いで席に戻り
カレーを掻き込む爆豪の肩を掴んだ
「おい!爆豪
やばいって、寧々ちゃんのトモダチ
轟の味方っぽいぞ!?」
「だったら何だ」
爆豪はめんどくさそうに掴まれた手を払う
「えー、だって不利じゃね?」
「爆豪、寧々ちゃん以外の女には冷てーってか、怖いもんな
もうちょっと愛想よくしろよー」
瀬呂が紙パックのジュースを飲みながらそう言うが
爆豪は空になった皿を机に置き
「俺は好きなヤツにしか優しくしねぇ」
と言い放ち、食器を下げに席を立った
それを聞いた3人は、目を丸くし顔を見合わせて
「男気あるぜ…」
「今のを寧々ちゃんが聞いてたらなぁ」
「確実惚れるよな」
各々の感想を述べつつ、良くも悪くも不器用な友人の背を見守った
爆豪という男は基本、周りがなんと言おうがあまり気にしないタチだが
さっきの上鳴達の発言には若干の苛立ちを覚えていた
周りの人間に心配されたことが、何となく、嫌だったのだ
どれだけ抱いても、
周りから見れば寧々は自分のものではない
その現実を突き付けられたような気がした
舌打ちを小さくして、教室に戻る廊下を歩いていると
ドン、と小さな衝撃が胸元に飛び込んできた