第30章 ミーンミー
そもそもお兄ちゃんが部屋に来たのは
一緒に実家に帰るためだった
学校前でタクシーを捕まえて、駅に向かう
寧々は首の噛み跡が見えないように
白のハイネックに、ピンク色の花柄スカート
太ももの噛み跡も隠すようにデニールの濃いタイツをはいている
「はい、チケット」
『ありがとう』
実家は高校から新幹線で片道2時間のところにあって
帰るのは焦凍と婚約の許可をもらいに行って以来だ
記憶喪失云々のことは、お兄ちゃんから説明してもらっているけれど
焦凍を「イケメン婿」と喜んでいた母
「不出来な娘ですが、大切にしてやってください」と
焦凍に言ってくれたことを思い出すと
仕方の無いこととはいえ申し訳なくなる。
寧々は、はぁ…とため息を吐くと
ボンヤリと窓から外を眺めた
だんだんと見慣れた景色になり、
速度がゆっくり落ちていく
駅名を繰り返すアナウンスを聞きながら新幹線を降りると
人混みの中でお兄ちゃんがそっと手を掴んでくれた
そのまま手を繋いで改札を抜けるが
人混みを抜けても、兄の手は離れない
どころか、指を絡めるようにしっかりと繋ぎ直される
「なにぼーっとしてるの?行くよ」
『え…あ、うん』
まぁ…手を繋ぐなんて、よくあるコトか
寮ぐらしを始めてから、また別々に住んでいたから
こうして距離が近いと、なんだか少し違和感をかんじる
一緒に暮らしていた頃は、毎朝抱きしめられて登校していたのだから
これくらいなんてことは無いのだけれど
駅からまた、タクシーに乗り、15分で実家に付いた
相変わらず正門から玄関への道のりは遠い
私は兄に手を引かれたまま
片道5分の道を歩いた。