第27章 サプライズミー
特に何を話すわけでもなく、二人は、ただぼんやりとテレビを見る
勝己は3枚目のせんべいを口に挟んだまま
一枚私に勧めてきた
『え、私はいいよ…
ぜったい辛いし』
「いいから一枚食ってみろ
お前が寄越してきたんだろうが」
『スーパーで見つけて
勝己好きそうだと思ったから…』
でも、たしかに上げたものの味を知らないのも良くないのかな?
とは思う
けれど、これは激辛ではない「狂辛」だ
…狂ってるのだ
勝己は平気そうに食べているから
あまり辛くなさそうに見えるけれど
それは勝己だからで、私が食べたら死んでしまうだろう
そう思って、勝己の差し出す一枚を通り過ぎて
勝己の口にくわえているせんべいにひと口
かじりつく
『……………………………………!!!!!』
辛いとかいうレベルじゃない!痛い!
悶絶しながらお茶に口をつける寧々の頭を
爆豪はクシャクシャと撫でる
「弱えぇな」
『うう…痛い…』
パタパタと唇を手で煽ぐ寧々を横目に
爆豪はまた一枚頬張った
そんな、なんてことの無い日常を
テレビの光だけが、優しく包む
キスをするでも、抱き合うでもない
この距離感は、記憶を失う前
まだ二人が付き合っていた頃と変わらない
そばに相手が居るだけで
それだけで完結する。
それは、互いが
10年近く探し求めていた相手だからに他ならないのか
それとも、もっと別の何かなのか
誰にも答えはわからない。
ウトウト首を縦に揺らし始めた寧々に
爆豪が肩を貸し
寄り添うように眠りについた寧々の
安らかな寝顔を
爆豪は、誰も見たことのないような
穏やかな顔で眺めるのだった
窓から見える月だけが
脆い彼等を見つめていた。