第16章 ドントフォゲットミー
〜爆豪side〜
轟と仮免講習に行って帰ってきた
話しかけてくるが、寧々とやっちまった手前、少しバツが悪ぃ
こいつが記憶喪失利用して寧々の事を奪ったのは腹立つが
その記憶喪失の原因もオレだ、責めれねぇ
その上で寝ちまったのはルール違反だったと思っている
帰ると寮内はなんかいい匂いして、キッチンには寧々が立っていた
(カレー作ったのか)
俺と寧々が付き合い始めた頃
うちでカレー作ってくれたことを思い出す
辛いのが好きだと言うと、俺も納得の激辛で作ってくれた
何回もおかわりすると、驚いたように笑っていて
そんな幸せだった情景を思い出す
でも、寧々は相変わらず轟の方に駆け寄ってきて
胸が締め付けられる
切島が「カレー食おう!」と肩を組んできたから
大人しくついてって席に座る
轟と笑ってる姿でもいいから見ていたいなんて…ドMかよ…俺
『焦凍用の辛さだし…辛すぎたら残していいからね』
なんて寧々に声をかけられる
あいつも辛れぇの好きなのか…
俺の記憶はねぇんだから、俺が辛いの好きってのは知らないのだろうな…と思いながら無言でスプーンを口にする
あの時の味だ
胸が満たされる辛さ
あの時の幸せだった時の情景をかき消すように、かき込む
今思い出したら、、、やべぇ
目頭が熱くなる
これは俺に作ったものではなく、半分野郎に作ったものなのだから
一気に食べ終わり、皿を置く
一呼吸して、斜め前を見ると、スプーンを手放した轟
「悪ぃ…ちょっと辛すぎる」
は?お前用に作ったって言ってただろ?
お前も辛いの好きなんじゃ……
『え?でも前これくらい辛いのがいいって…』
前っていつだ?
寧々は困惑したように目を泳がせている…
轟がバツの悪い顔をして、こちらを一度見てきて…
そういうことか
俺に作った記憶を轟に塗り替えて…轟は辛いもんが好きじゃなくて…
じゃあこれは、俺用の辛さか
一瞬の優越感、そして、記憶が完全に失われたのではなくて
改ざんされているだけだということへの安心感
寧々は部屋に戻っていった
もう一杯食おうと、皿を持って席を立つと
「なぁ…」
と、轟が声をかけてくる
「んだよ…」