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青色幻燈

第2章 寒地にて


「こりゃあ、良い」

こんこんと湧き出す透明なお湯に、すっかり体の冷え切った私は一声唸った。そこらじゅうに真白い湯気がゆらゆら立ち込めて、風呂の周りの雪がその熱で溶けているのを見るにつけても、お湯の熱さが身に染みるようである。もう辛抱たまらんと大急ぎで帯をほどき、手拭い一枚で湯辺に立つ。すとん、と、足先を潜らせると、そこだけ痺れたようになるのがまた楽しい。足から腰、腰から胸、胸から肩まですっぽりつかると、頭が芯からじんとして来る。

「いいですなあ」

ねっとりとからみつくような熱い湯が、寒さに凝り固まっていた体のあちこちをゆっくりとほぐし、流していく。満足の息をついて手拭いを頭に乗せ、フと男を見れば私と同じ格好でじっと目を細めて空を見上げていた。

「今晩は本当に良い星夜ですね」

男が両の手を湯に泳がせて満ち足りた顔で、一人言のようにポツンと言う。灯りは中くらいのランプが脱衣所に一つ、湯の脇に一つ、黒い煙りを細々と吐いているだけで、そこらじゅう星や雪の灯りで潤っているような夜だから、本当に全く、良い星夜なのだ。

「今時分が一年で一番星が賑わうのですよ。見てご覧なさい」

そう言って男が大きく腕を伸ばす先に満点の星が眩い。

「あの三つの大きな星」

と、男は伸ばした腕で大きな三角形を描く。

「プロキオン、ぺテルギウス、シリウス。冬の大三角ですよ」

男の腕の動きを追って目を凝らせば、確かに夜空に冬の大三角系が浮かび上がって来るから不思議だ。男は更に大きく腕を動かして満点の星を次々に指し示して行く。

「あのぺテルギウスがかかる星座がオリオン座。その右肩のところに牝牛座。それらの少し下にあるのが一角獣座と仔犬座。そしてあのオリオン座の東北東に光るのが双子座です」

男はここまで話すと、空を見上げたままふっと口を噤んだ。また何か物思いに耽っているようで、高く掲げていた腕を湯に潜らせてじっと黙り込んでいる。
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