第2章 寒地にて
一体何のことだ。一度気になると解決するまでどうにもならぬ性分なのだ。それにしてもここに来てからあの男に振り回されてばかりいるような気がする。
頭を掻き掻き、首を傾げ傾げ、最後の授業が終わるのももどかしく職員室へ戻ると、男がコートを着こんで待っていた。駅に迎えに来たときそのままの格好である。
「やあ」
男は私を見ると、あの象の目をして笑った。
「終わりましたか」
その落ち着いた声を聞いて来たのが俄かに恥ずかしくなり、私は咳払いを一つで苦笑した。
「終わりました」
「なら出かけましょう」
男はにこにこと言うとスタスタ歩き出した。
表に出ると夕暮れに雪が眩しく染まっていた。寒いのも歩きづらいのも変わりないが、しかしまあ、この景色の眩いこと。
「見事ですなあ」
感に堪えず唸ると、男がピタリと立ち止まった。
「今日は良い天気でしたね」
空を見上げてしげしげと目を細める。
「ええ、良い天気でした」
倣って空を見上げると、改めて見事な夕暮れである。
男はそうしてしばらく空のあっちを見上げ、こっちを見回ししていたが、不意にこくりと大きく頷くと私を振り返った。
「どうですか。今日はいい星が見れそうですよ」
「この調子で晴れておれば見事でしょうな」
「今晩はきっと一晩中晴れているでしょうから、いっそ宿を変えませんか」
「は?」
男が急なことを言うので、私はちょっと目をしばたかせた。星の話からいきなり宿替えの話、夜越しする事を思えば無関係ではあるまいが、ちと突飛過ぎやしないか。
「いや、しかしですな…」
「そうしましょう。私が責任持って良い宿を紹介しますから、是非そうした方がいいですよ」
「ふむ」
男があんまりはっきりと断定的に言うので、私は引き込まれてつい頷いた。
昨日の宿は可もなく不可もなく、特に他に移るような理由は見当たらないが、しかしこの男が宿を紹介してくれるというならそれもよかろう。そんな気になる。
「宜しくお任せします」
「承知しました」
男はにっこりと頷くと、来たときと同じ早足で歩き出した。それにしてもこの男は何でこう足が速いのだろう。私は雪に辞易しながら必死で男の後を追った。