第2章 寒地にて
翌朝目を覚ますと、昨夜の吹雪が嘘のように晴れ渡っていた。
私は朝食の菜に添えてまた白菜漬けを食べ、身なりを整えていそいそと宿を出た。昨日の男の如き教員を擁した学校というのはどのようなものなのか、白菜をかじって雪を眺めているうちに大変な興味が湧いて来たのだ。それを考えているうちに酒も呑まずに寝てしまったのだから、寝覚めはすこぶる爽やかだ。
私の宿は残念ながら温泉宿ではないから、この視察を終えたら何としてでも良い湯を見つけて入って行こうと思いながら視察先の農学校を臨む。この小さな農学校は、来月の頭には新しい校舎へそっくり移ることになっている。名前も変わるという話だ。寒々とした雪の中で、春には生徒も職員も使う皆失う古びた小さな校舎は何とも心細そうに見えた。
職員玄関から幾つか掲示されている立て札に従って進むと、小さな職員室に行き着いた。
「お早う御座います」
引き戸を開けて挨拶すると、職員らが一斉に顔を上げた。昨日の男も輪の中にいる。
「やあこれはこれは。ようこそいらっしゃいました」
そう言って立ち上がったのはどうやら校長らしいが、何とこの学校では校長も他の教員と机を並べているらしい。うちの学校は職員室と校長室はきっちり分かれているから、私はちょっと驚いた。ストーブの回りに集まって楽しそうに話すその中に、校長が混じっても不自然ないとは何と羨ましいこと。
「さあ、そんなところに突っ立っておっちゃ寒いでしょう。こっちへお入んなさい」
校長は気さくに言って手招きしてくれる。私は一礼して中に入った。
職員室の窓はやけに大きくて、そこから雪に乱反射した陽の光がひどく眩しく差し込んで来る。日差しはこんなに眩しいのにしかしどうしてこんなにも寒いのだろう。
ストーブの前に居ても少しも温まらないのに閉口しながら教員らの話を聞くともなく聞いていると、すぐに授業の時間になった。
「それでは行きましょうか」
昨日の男がやおら立ち上がって私を促した。どうやら一限目はこの男の授業らしい。揃ってひどく寒い廊下に出た。