第1章 境界上にて邂逅す
不思議な予感がする、とゴンは言った。
辺りに立ちこめる深い霧の中、ただ前を目指して走っていた。
「ヒソカとは違う、違うけど似ている気配……。なんかね、うずうずするんだ」
幼いけれど気持ちのいい。ゴン独特の気性の現れている言葉に、クラピカは笑って頷く。
霧の所為か、髪が水分を含んで、鈍く金に艶めく。
駆ける足音の軽さ、二人の呼吸、――少しの沈黙。ゴンはどこか真っ直ぐを見据えたまま、口を開く。
「ひどく懐かしいような……不思議な予感がする」
先ほどから二人の話題に上っているのは、名も知らぬ独りの受験者である。 試験の始まる前、向こう側にひとりで佇んでいたあの若者を、あれ以降見かけていない。ゆえに、生き残っている保証など無いのだが。
あの果てない地下回廊に飲まれてしまったのか――……否。
『きっと近い内に出会うだろう』
霧がゆるゆる晴れてきた。日差しが影を露わにする。視界は晴れたが、前方を走っているはずのヒソカは視界に入って来ない。
「きっと、この先に居るよ」
「そうだな……」
根拠は無い。推測材料すら無い。
それでも予感は揺るぎなく。
きっと……
そして二人から少し離れて後ろ、同じ進路を辿る者がいる。
上空には太陽。……全てを見下ろす至高の存在は、三者の軌跡を一直線上にとらえている。
――あと一時間で、南中。