第2章 うしろのしょうめんだーぁれ
ちくしょー、むかつく。
あのじいさん……手加減してあの強さかよ。
でも、まあ、面白くなってきそうだな。この試験。
暇つぶしのつもりだったけど、案外……
「って! んだよあぶねーな」
「おいボウズ! ぶつかったらちゃんと謝れ!」
オレはあえて無視する。
「おい、聞こえてねーのか!」
すいっと腕を閃かせる。それで終わり。
……くだらねえ。雑魚。
空中分解する肉片と、血。
一度視線を下げて、また前を向く。その瞬間、オレは小さく息を呑んで後退った。
血塗られた光景の中に、影を見た。
影は血まみれで、こちらを向いて、笑った。
あの冷笑で。
家の連中がやるような冷笑だったら、オレだってこんなに怯えたりしない。暗殺稼業では、気が緩まないようにするために、決して相手を侮らないものだから。
だがこの不気味な程の相手側の優越はどうしたことだ。
獅子 対 うさぎ? ……否。
ひたすらに、一点の陰りも無い天空。圧倒的な存在感と重圧でのしかかりながら、決して触れる事の無い。
見上げれば感銘より先に畏怖を覚えるほどの、あの底なしの蒼穹。
または深く深く限りなく闇に近い、暗く鮮烈で、絶対零度と灼熱を抱きかかえる宙。
対してオレは、地面に磔られた惨めな小さいもの。
「そんなものに、意味はあるのか?」
オレはその場に膝をつく。
全身が震えて、冷や汗が流れる。
目の前にはもう影も無い。
オレはまばたきすらしていないはずなんだ。……そのはずだ。
さっきまで他愛ないことをしゃべって遊んでいたあの影形。
なのにがらりと違う面を見せて行った。
……どうやらとんでもないヤツと知り合ってしまったらしい。