第18章 想いの譚詩曲
「次はなんて言葉は聞きたくないんだ!!!」
悲痛な幸村君の叫びが聞こえた後に真田君が静かに病室から出て来る。
『皆…』
「姫先輩…」
「すまん桜音…実は…ぶっ!?」
一同「!?」
何かを言おうとする真田君の口に缶ジュースを押し当てて言葉を遮る。そして他の皆にも同じ様に顔に缶ジュースを押し当ててやった。
『話はまた明日。ここはアタシに任せて』
何て偉そうな事言ってはみたものの、本当は何にも考えて無い。
※※※
-コンコン-
「!」
病室の扉がノックされる。部員達は追い出してしまったから違う。家族も部員達が来る前に帰ったから違う。家族と一緒に居た智桜姫も気付いたら居なくなってたから多分帰ったのだろう。となると医者か…と顔を上げる。
「っ!智桜姫…!」
こんな顔は見られたくないと顔をそらしてパジャマの袖で顔を拭う。
『なんて顔してんの』
凛とした優しい声が病室に響く。駄目だ。今この声を聞いたら余計に…
『駄目じゃん。あんな事言ったら』
「聞い…てたの?」
『ちょっとだけね』
コツコツとローファーの音はこちらに向かうのでは無く夕暮れの微かな光が差し込む窓際に向かう。目線だけ上げると小さな背中。とても華奢なのに何処か逞しくて頼り甲斐のある背中。
『アタシは正直分からない』
「?」
『常勝と言う重圧とか三連覇への皆からの期待の重圧とか』
「………」
『でもアタシは知ってるよ。皆の血の滲む様な努力、幸村君への思い。幸村君がコートに戻る為に戦った事、関東大会に出られなかった悔しさも』
その言葉一つ一つが優しく心に染み込んでくる。
『そりゃ負けるより勝った方が良いとは思うけど負けってそんなに悪い事?負けて得る事も沢山あると………アタシは思うな』
ゆっくりと此方を振り向くと、ゆったりとした足取りで此方に来ると俯く俺の顔を覗き込むように微笑む。
「頭では…分かってる」
『うん』
部長と言う俺が居ない中、必死に色々な重圧と戦ってた仲間達。そんな大変さを微塵も俺に見せない様に気を使ってくれてた事。
「でも…心が追い付かない」
自分が試合に出られない悔しさ。病気を患ってしまった不甲斐なさ。