第18章 想いの譚詩曲
「何か…ごめん…騒がしい家族で」
『ううん。とても楽しくて良いと思う』
幸村君はいつもスマートで余裕があるから、こんな顔もするんだって思うと可愛くて…んでもってそんな表情が見れて嬉しくて頬がゆるっゆるになってるのが自分でも分かる。
『家族と居る幸村君はこんな感じなんだね』
「違…これは両親がからかうから…」
『からかう?』
「いや…何でも無い」
『ふふふ』
いいなぁこう言うの。好きな人の新たな一面を見れたりとか意外な部分を知れたりするのは、とても幸せ。
「………嬉しそう、だね」
『んー…幸村君さ、手術終わったらやりたい事あるって言ってたでしょ?』
「うん」
『手術終わったら早くコートに戻って来て』
「うん」
『アタシ沢山サポート頑張るから』
「有難う」
『んでもって…』
この口説き文句は覚えてるかしら。
「『最高の景色を見せ(て/る)』」
『!覚えててくれたんだ』
「勿論だよ。生まれて初めての口説き文句だからね」
『アタシも口説かれたの初めて』
何て笑い合う空気がとても甘くて。
『全国大会終わったら皆で遊ぼう。夏休み終わって学校始まったら皆で勉強して残りの中学生生活エンジョイしよう』
「うん…」
『だから』
「?」
『負けないで。勝って。皆も勝ってくると思うし』
「うん」
※※※
手術中のランプが点灯中、その扉の前には沢山の人が居た。幸村君のご家族、部員達。皆が祈るように手を合わせていた。ただ、真田君だけは試合が長引いてて来れなかった。手術時間はそんなに長くは無かったハズなのに酷く長く感じて手術中のランプが消灯してお医者様から"成功しました"の言葉を聞いて涙を流した人は多い。
術後の目覚めまでの時間はどれだけかかるかは分からないと言われたけど幸村君は直ぐ目を覚ましてくれた。でもそこでアタシが泣くのは場違いも甚だしいし家族水入らずの時間も必要だろうから、そっと席を外して屋上に向かう途中の窓からとても暗い顔をして病院に入ってくる真田君を見かけた。
『多分、恐らくは…』
容易についてしまった想像に悔しさを払い除けて皆とどう接するべきかちょっと考えた後、そろそろ皆落ち着いた頃かと病室に戻ると病室の前で俯く部員達が目に入る。