第18章 想いの譚詩曲
私達の方がずっと智桜姫の事を知っているのに。たかが数ヶ月しか一緒に居ない彼等の方が智桜姫を笑顔にしてる。
-ぽん-
『!』
「んな顔すんじゃねぇよ」
ぶっきらぼうに私の頭を撫でる。
「俺様は兎も角…実亞加、お前はアイツの親友だろ?喜んでやれよ」
分かってる。智桜姫に笑顔が戻りつつあるのはとっても嬉しい。でもやっぱり………悔しいなぁ。
※※※
『…って皆に言われて来たんだけど…良かったですかね?部長』
スクールバッグを抱き締める様に抱えて。多少息を乱して、いつも綺麗に纏まってる髪の毛も多少乱して。額に汗を浮かべながら余所余所しく病室の扉から顔を覗かせる。
「勿論だよ。ほら座って」
気遣ってくれる部員達に感謝しつつ、もしかしたら智桜姫の洞察力や観察力が必要な戦況になったらどうするんだと言う不安を抱えながらも、やっぱり俺は彼女と過ごす折角の時間を大切にしたい。
-ガラッ-
「おにーちゃーん!来たよー!」
「聖菜!病院では静かに」
「精市、具合の方は…」
「『………』」
「あら…お邪魔だったかしら?」
「わわわ!智桜姫さん!」
と思えば、まぁ家族に対して邪魔者は無いかも知れないけど邪魔者が入る。
「智桜姫…さん?彼女は…」
『あ!えっと!』
ガタッと椅子から勢い良く立ち上がると背筋を伸ばす。
『同級生の桜音 智桜姫と申します。微力ながらテニス部のお手伝いもさせていただいてます』
「あぁ君が………」
深々とお辞儀をする彼女を見た後、俺を見た父さんは含みのある笑みを浮かべる。そして母さんがポロリ。
「あら、まだ同級生なの?」
『え?』
「母さん!」
「礼儀正しくてしっかりした可愛らしい娘さんじゃないか」
『えっ?』
「ちょっと父さんも!」
「元気だし大丈夫そうね。邪魔者はお暇しましょう」
「そうだな」
「え!?でも智桜姫さん…」
「いいから行くわよ」
※※※
「はぁ~………」
と頭を抱えて盛大な溜息を吐く幸村君の顔は少し余裕が無くて頬が赤く染まっていて可愛いなぁなんて思って見詰めていたらバチッと目が合う。