第18章 想いの譚詩曲
「今日は幸む『姫ーっ!』………」
『ひゃっ』
柳君が何かを言うのを遮る明るい声。その瞬間背後から身体がずしりと重くなった…かと思えば直ぐに身体は軽くなる。
「飛び付くのはやめろ実亞加」
『にゃっ!?離してよー』
「「………」」
『実亞加…!それに跡部も!』
『やっほー!観戦しに来ちゃった』
何て跡部に首根っこを掴まれながら言う実亞加を跡部から引き剥がして頭を撫でると、ぎゅーって抱き着かれる。
『ふふふー!頑張ってね智桜姫』
『うん…頑張るのはアタシじゃ無いけどね?』
「油断しない事だな」
「青学など我々の敵ではない」
「アーン?甘く見てると足元掬われるぜ。行くぞ実亞加」
『はーい!じゃねー姫ー』
嵐の様に訪れて嵐の様に去って行く。多少近付いたであろう二人の背中を見送ってると、ふと柳君が何かを言いかけてた事を思い出す。
『そう言えば何か用だった?』
「あぁ…折角ここまで来て貰ったのに悪いが………今日は幸村に付いてやってはくれないか?」
『………え?』
「我々も試合が終わったらすぐ向かう。それまで幸村の傍に居てやってくれ」
『でも…』
「俺達の事は心配するな。それに…智桜姫が傍に居る方が幸村も心強いだろう」
※※※
「あれ?立海さんのマネージャー帰っちゃうんスかね?」
「…本当だ。どうしたんだろう?」
「あーあ。いいなぁ…氷帝と立海は可愛いマネージャーが居て」
そんな会話が聞こえて立海のベンチの方を見ると姫が荷物を纏めて部員と何かを話していた。青くなったり赤くなったり、くるくると表情を変えて。あんな智桜姫、久し振りに見た気がする。
「病院…か」
ポツリと呟いた跡部に視線を向けると直ぐ気付いて、でも直ぐに走って行く智桜姫の背中を見詰める。
「幸村の手術日だろ?付き添うんじゃねーか?」
『………』
「俺じゃ…」
『?』
「俺達じゃあんな顔はさせてあげられなかったな」
『そう…だね………』
ぎゅっと握るフェンスの網がガシャンと静かに音を立てる。悔しいなぁ…私の方が………私達の方がずっと智桜姫と居た時間は長いのに。