第18章 想いの譚詩曲
7月末。一学期を終業し中学生生活最後の夏休みに入る。だけどアタシ達…彼等の夏はとても忙しくて熱い。
「智桜姫?」
病室に入ってから扉の前で突っ立ったまま俯いて沈黙を貫くアタシに幸村君は困った様に微笑む。
「座らないの?」
誘う様に椅子を軽く叩くけどアタシの脚は全く動かない。まるで床と一体化してしまったみたいに。ここに来る前は何話そうとか色々考えてたのに幸村君の顔を見たら全部飛んじゃって。
「智桜姫」
近付いてくる気配がする。笑顔で明日頑張ってね!とか、頑張ろうね!とか、頑張るよ!って言うつもりだったのに。
「もしかして…心配してくれてる?」
『!』
確信を付かれた言葉に顔を上げると思った以上に近い距離に幸村君が居て、いつもの様に優しい笑顔を浮かべていた。それを見てると胸がきゅってなって余計に言葉が詰まって出て来ない。
「智桜姫は優しいね」
そう言いながら手を取ると引っ張ってくれて椅子に座らせてくれる。幸村君はベットに腰掛けて向かい合う感じで。手はまだ握られたまま。とても暖かい。
「手術が終わったらやりたい事、沢山あるんだ」
『やりたい…事?』
「テニスは勿論だけど勉強も。それだけじゃないよ」
『?』
握られた手が優しく撫でられる。
「皆とも遊びに出掛けたいし…君ともっと話したい。智桜姫の事を知りたい」
『ア、タシ?』
「そうだなー…例えばどんな人がタイプとか」
『たっ…!たたたたっタイプ!?』
「冗談だよ。そんなに焦っちゃって可愛いなぁ」
もっと伝えたい言葉はあったのに。駄目だなぁ…気ぃ使われちゃって。明日は関東大会三日目。決勝戦。
そして…幸村君の手術日。
※※※
天気は快晴。照り付ける日差しは容赦が無く灼熱のコートと化す。対戦相手は東京の青春学園。今大会注目のダークホースであり、そして青学も部長が不在のカタチで決勝戦に臨む。どうやら初戦の氷帝戦で跡部と試合した時に肩を痛めて療養中だそうな。
『…うん、皆体調はバッチリだね』
「桜音」
ストレッチやら各々試合の準備をする様子を見て一人で頷いていたら真田君に声をかけられる。柳君も一緒。
『どうしたの?』