第16章 飛び交う交声曲
『んー?どうしたの?』
名前を呼べば優しい笑顔を浮かべて小首を傾げる。あぁもう本当に可愛いんだから。この可愛さは罪だ。
「来月…手術する事になったよ」
『えっ…』
「月末くらいかな…」
『………そっか』
笑顔が少し不安そうに揺らぐ。どうして君がそんなに不安そうな顔をするのだろう。少しの沈黙の後、彼女は意を決した様に息を吸い込む。
『アタシに出来る事ある?』
「え?」
『手術するなら体力付けなくちゃだよね!あ!そうだ!お弁当、作ってこようか?病院食って栄養は考えてあるけど量は少ないし体力付かないんじゃない?』
"こう見えて料理には自信あるんだよ"なんて意気込んでる姿がもう、どうしようも無いくらい愛おしい。
「ふふふ」
『?』
「君が料理が得意な事は知ってるよ」
よく晩御飯の献立とか考えてる時あるし、部員がいつも"姫のお弁当は美味しそうだ"って言ってるし、よく持ってきてくれる手作りのお菓子だって美味しいし。
「手術が頑張れそうだ」
『っ!』
※※※
幸村君の手術日は来月末。本人から手術をすると聞いて少し不安になった。だって病気の事を調べた時に手術の成功率があまり高くない事を知っていたから。それでも幸村君はコートに戻る為に手術を受けると言った。
『あ、切原君そこ間違ってる』
「マジっすか!?」
「うむ、間違っているぞ」
だからアタシは全力で幸村君を応援したいし支えになりたいとも思う。少しでも一緒に居る時間を増やしたいと…思う。
『そこ、先にXを求めなきゃ駄目だよ』
「…は!成程!」
「智桜姫」
『何?柳君』
「何か考え事か?」
『うーん、少しね』
いや、少しどころではない。
こうして色んな事を思うのもやっぱり幸村君に恋してるからなのかな。恋って凄く大変かも。一緒に居る時間を増やしたいとか思っちゃってるけど、幸村君は好きな人が居るみたいだし…あんまり会いに行くのも迷惑かもしれないのは分かってる…けど。
『あ!そうそう!切原君やれば出来るじゃん!』
「俺が本気になればこんなの楽勝っすよ!」
「………器用だな」
『そう?』
「別の事考えてるのに勉強も見るなど一度に違う二つの事を同時には普通出来ないぞ」
『そうゆうもん?』