第15章 止まらない芸術歌曲
「うぐ…」
『簡単な話よ。赤点を取らなければいいだけじゃない』
一同「それが難しいんだって」
と全員に突っ込まれる。
「月末からテスト期間に入る。俺と弦一郎と柳生と智桜姫で手分けして対策を立てよう」
「そうですね」
「無論だ」
『了解』
やっぱアタシも入るんだね、うん。知ってた。
※※※
『って感じで期末テストは皆で協力して切原君の赤点回避に努めようかと』
学校に咲いてたらしい紫陽花を摘み取ってくれたみたいで、それを花瓶に生けながら今日の出来事を話してくれる。
-つん-
『ひっ!?』
「どうしたの?」
『あ…いや、えっと…』
紫陽花の葉っぱの裏に手が触れてから小さな悲鳴を上げてそのまま石にでもなってしまったのかと思うくらい硬直する。
『うわ…駄目だこの感触…ヤバいこれはヤバい』
と言ってるものの硬直したまま動かない…いや、動けずにいるのだろうか?不思議に思って近くに行ってみる。
「智桜姫?」
『手…手っ!ゆゆゆゆ、指!あーダメやめて動かないでぇ…』
主語が無いから何が言いたいのかは分からないけど、こんなにもパニックになってる智桜姫は初めて見るし、なんかちょっと可愛い。
手とか指って言う事は…ペラっと葉っぱを捲ってみると、これから立派な蝶になるであろう蛹前の大きな芋虫が智桜姫の綺麗な指を這っていた。
「あ…」
チラリと智桜姫を見ると自分の手を見て青ざめていく顔。そして急に力が抜ける。
「智桜姫!?」
慌てて支えるけど智桜姫は青ざめたまま目を閉じている。気を………失っていた。
※※※
ふわ、と鼻腔を擽る爽やかな香り。短めの髪の毛を梳く優しい手付き。一瞬だけ頬に感じた柔らかい感触。
『ん…ぅ…』
ひやり、と大きな手がおでこに乗せられる。冷たくて気持ちいい。
『………あ、れ?』
「あ、おはよう」
『っ!?』
目を開けると見慣れない白い天井。柔らかい声がした方に頭を動かすと楽しそうな笑顔を浮かべる少しアップの幸村君。一気に頬に熱が集まるけど、瞬間的に現状を把握して血の気が一気に引いていく。
「赤くなったり青くなったり忙しいね?」