第14章 雨音は夜想曲
『ちょ…大丈夫だから』
棚からタオルを数枚取り出して智桜姫に渡す。一枚は自分が持って頭に被せてわしゃわしゃと濡れた髪の毛を拭く。
『ゆ、幸村君!』
「こんな日くらい気を使わなくていいのに」
こんな日でも来てくれて凄く嬉しいのに出た言葉はとても素直とは言えなくて。その形のいい小さな頭に触れる。
『だって………い、た………もん…』
「ん?」
小さくなっていく言葉は最後まで聴き取れなくて、頭を拭く手を止める。
『ほら、課せられた任務はしっかりとこなしたいじゃん?』
「だとしても風邪引いたら本末転倒だろ?」
『んー…確かに』
"ごめん"と肩を竦めると、自分で拭くから、とタオルを取り上げられる。濡れて透けるブラウスから見えるインナーの色は黒。キチンとインナーを着てる事に安堵する自分がいた。
「最近…元気無いって皆が心配してたよ」
『え!?そうなの!?』
「うん…何かあったの?」
『あー…うんまぁ…』
と言葉を濁らせながら髪の毛を拭く手を止めない。
『最近、告白される事多くてさ…アタシの何がいいのか良く分かんないんだよね』
困った様に笑う智桜姫を見て胸がキュッと絞まる。
※※※
貴方のせいです。なんて言える訳もなく、ただそれっぽい言葉を並べる。ここ最近、考えるのは幸村君の事ばかり。ふと思い出すのは幸村君の事。でもそれはどうしてか分からずにいる。
「好きだから告白するんだよ。好きに理由なんて無いんじゃないかな?」
『そう…なの?』
「だって気付いたら好きになってるんだよ?どうしようも無いよね」
困った様に笑う幸村君を見て胸の奥がチクリと痛む。幸村君には…好きな人がいるかな…なんて事は聞けるハズも無く。
『そっか…じゃあアタシはそろそろお暇するよ。タオルは洗濯して返すね』
「気にしなくてもいいのに」
スルリと頭に被ってたタオルを畳もうと引っ張るとグイッと右耳が引っ張られる。
『痛っ』
「どうかした?」
『あー、大丈夫。タオルの繊維がピアスに引っかかったみたい』
と耳を触りながら言ってみるものの鏡が無いのでどう引っかかった てるか分からず、なかなか取れない。
「貸して」
有無を言わさず伸びてきた腕。