第14章 雨音は夜想曲
幸村君の暖かい指先が冷えた耳朶に触れるだけで背筋に甘い痺れが走る。
『………っ』
※※※
まるで何かに耐える様にギュッと目を瞑ってキュッと唇を引き結ぶ。
「………」
『………』
「………」
『………取れた?』
「まだ」
邪魔な髪の毛を耳にかけてあげると小さく肩が震える。あぁ…なんて無防備で可愛いんだ。困らせたくないし長期戦は覚悟してる。でもこれは君が悪い。
まだ湿ってる前髪にそっと唇を落として直ぐ離れる。
「はい、取れたよ」
『あ…ありがと』
「痛くないの?」
『うん全然』
もう一度お礼を言うと彼女は立ち上がる。
『また来るね』
「こんな嵐の日は真っ直ぐ帰るんだよ」
『分かってますって』
無邪気な笑顔を見送って自分の胸元を握り締める。
「はぁ…心臓に悪い」
少し前まではその顔を見れるだけで良かったのに事故とは言え、押し倒してしまった一件の後から凄く欲深くなってて見てるだけじゃ…傍に居てくれるだけじゃ物足りなくなってる自分がいる。
※※※
"もしもーし"
『あ、実亞加?ゴメンねこんな遅い時間に』
"ううん、どったのー?"
夜中の2時。迷惑だと分かっていても親友の番号のダイヤルを押す。
『好きって何?』
"ぶふぉ!?ちょ…どうしたのよ姫!?"
『いや…うん…なんとなく』
"私は姫の事世界で一番好きだよ"
『うん、アタシも』
"………、じゃあ違う好きだ?"
親友の言葉に黙りの肯定をする。
"四六時中その人の事を考えちゃうの。今何してるなかなーとか好物は何だろうーとか会いたいなーとか"
『…うん』
"始めはさ見てるだけで満足なの。今日も麗しいとか今日も格好いいとか"
『うん』
"それが段々近付きたくなっちゃうの。その手を握ってみたいなーとか髪の毛に触ってみたいなーって。んでもってその人に好きな人の話を聞いたりすると心が痛むんだよ"
『………!』
"ねぇ智桜姫、【恋】の好きな人、出来た?"
『え』
"私の話を聞きながら思い浮かんだその人はきっと姫の好きな人だよ。その人に恋してるの"
頬に熱が集まる。
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