第14章 雨音は夜想曲
「「「げ…桜音、さん」」」
『狭いんだから周り配慮してよ。通行の邪魔。雑談するなら教室でするのが当たり前でしょ』
じっ…と見れば萎縮した様に壁に張り付いて、この場を後にしようとする。
『待ちなよ。わざとじゃなくても謝罪が先だろ?アタシが反応出来なかったら階段から落ちて大怪我よ』
「「「すみません…」」」
「うん…」
※※※
「今日の放課後はトレーニングルームを借りて…」
-バタバタ-
「何だよアイツ!本当可愛くねー!」
「顔は可愛いけどな!」
「性格キツイよなー」
「ちょっとぶつかっただけじゃん!結果的に怪我しなかったから、あっこまで言う必要無くね?」
本日の放課後の練習について弦一郎と話しながら廊下を歩いていたら男子生徒が不貞腐れながら俺達の横を通って行く。何かあったのだと考えた俺達は男子生徒が出て来た角を曲がる。
『大丈夫?怪我してない?』
「うん、有難う!死ぬかと思ったよ」
-きゃあきゃあ-
「見たー?今の桜音先輩!」
「見た見た!超イケメン!」
「私も助けられたい!」
黄色い声に包まれる階段。女子生徒の手を握りながら心配そうな表情を浮かべる智桜姫。何があったかは分からないが彼女を助けたらしい。
『そう、良かった。気を付けてね』
優しく微笑むと階段を下って行く。反対に階段を上る女子生徒に声をかけてみる。
「何かあったのか?」
「ぶつかって階段から落ちそうになったのを助けてもらったの」
ほんのり頬を紅く染める。成程…確かに紳士だ。
※※※
窓に打ち付ける横殴りの激しい雨は自然と気分を沈めていく。この雨だと、いくら傘を挿したところでびしょ濡れになる。きっと彼女は来ないだろう。ここまで雨を疎ましく思ったのは初めて。
-コンコン-
「はい?」
ガラッと扉を開けて入ってきたのは紛れも無く俺が会いたかった子。全身がずぶ濡れ。
『今日はやめとこうと思ったんだけど…やっぱりプリントはちゃんと届けないとって思って』
「取り敢えず座って。拭かないと風邪引くよ」
『いいよ、プリント渡したらすぐ帰るから』
と扉の前に立ったまま鞄を漁る智桜姫の手を引っ張って無理やり椅子に座らせる。