第14章 雨音は夜想曲
「って感じなんだだよ」
「しっかりはしてるんだが上の空って感じだな」
6月中旬。季節は梅雨に入り雨の日が続く。練習が出来ない部員達はこうして頻繁に寄ってくれては日常的な会話を弾ませる。
「部長は何か聞いてるっすか?」
「うーん、相変わらず毎日来てくれてるけど全然そんな感じは無いんだよなぁ」
いつも通りの凛とした声色。優しい笑顔で勉強を教えてくれる。
部員達の話によれば学校では上の空でここ最近告白ラッシュを受けているとか。それも全て一刀両断らしい。
「先日は女子生徒から告白を受けていたな」
「あー!それ、俺のクラスの女子っすよ!美術部員でスケッチブックには姫先輩の絵が沢山描いてあったっす!」
「因みにその時の断り方は来世、男に生まれ変わったら是非…だったらしい」
女の子からの告白はとても夢を与える断り方をするんだなぁ…彼女らしいやと思うと小さく笑ってしまう。
「む、何がおかしいのだ?」
「いや、智桜姫らしいと思ってね」
一同「?」
「たまに入院してる子供達と一緒に遊んであげてるんだけど、その時の智桜姫って俺も吃驚するぐらい紳士なんだよ」
男の子達には女の子にこんな事したら駄目、とか色々教えてあげてたり。俺自身もちゃっかりそれを聞きながら学んでいるのは秘密。
※※※
雨は苦手。縮毛矯正を当ててると言えど湿気でうねる髪の毛は面倒だしベタつく肌は気持ち悪い。多少なりとも濡れる制服は雨の匂いが残って靴と靴下なんてぐしょぐしょ。洗濯物も乾かない。校舎に密集する生徒達の熱気は暑苦しい。いい事なんて一つも無い。
「でさー…」
「マジで!?超ウケるんだど!」
何がそんなに面白いんだか。雑談するなら教室でしろよ、と心の奥で悪態を付きながら保健室までの階段を下る。別に体調が悪い訳では無い。ただ雨の日のサボる場所としてはベストなのだ。
「んで、こーんな感じでさ!」
-ドンッ-
「あ、わり…!」
と謝った時には既に遅く、大きな身振り手振りにぶつかった女子生徒が階段から落ちそうになる。
『!』
-パシッ-
一同「!!!」
階段を数段飛び降りて宙を彷徨う手を掴んで自分の方に勢い良く引き寄せる。
「!?」
『ちょっと』