第13章 心の夢想曲
彼女の小さな手を引っ張って身体を起こす。手も…熱い。
『無理…しないで………ゆっくり休んで』
「有難う」
『じゃあアタシ…帰るね』
ぎこちなく笑うと少し足早に屋上を出る。
事故とは言え………まさか首筋にキスをしてしまうとは。
「熱い、な」
君の熱に触れた唇が。手が。心が。
※※※
何だったの、さっきのは。アタシが下敷きで幸村君に怪我が無かったのは良かったんだけど直ぐ横に幸村君の顔があって…接触してて………幸村君の唇が………
『首に………』
擽ったくてわけ分かんない変な声も出ちゃったし恥ずかしくて死にそう。顔に熱が集まってるの分かるし、まだ心臓が煩いし。
『すー…はー…』
落ち着けアタシ。アレは事故。何でもない…けど。
あんな儚げ美男子とあんなに密着した挙句、あんな切なそうな顔で謝られて気が動転しない方がおかしい。
『ふーっ…』
確かに幸村君は目の保養だし凄くいい人。この心臓が煩いのは吃驚したせい。それ以外の何でもない。
※※※
-コンコン-
「どうぞ」
大丈夫。いつも通り。
『こんにちわ、幸村君』
「智桜姫…」
『今日は学校のプリントと授業内容を解り易く纏めたノート、持ってきたよ』
「…有難う」
うん、幸村君もいつも通り。これなら大丈夫そう。
「うん、いつ見ても解り易いね」
『有難う。授業内容で聞いておきたい事ある?』
「そうだなぁ…」
真剣にノートを見る幸村君をぼーっと眺める。そう言えば髪の毛ふわふわだった。肌も凄く綺麗で…あ、睫毛長い。羨ましい。ホント綺麗な顔してる。性格だって優しいし温和だし気遣いも出来る。きっと幸村君の事を好きな人は多いんだろうなぁ…
『…?』
あれ?アタシ何を考えてるの?ちょっと待って…何か心臓の鼓動が…
「あ、ここなんだけど…」
-パァン!-
「!?」
思いっきり自分のほっぺたを引っ張叩いた。
「どうしたんだい…?」
『蚊が止まってたみたい』
※※※
分からないところを教科書とノートを広げながら細かく説明をしてくれる智桜姫。昨日の事故も特に気にしてる様子は無いみたいでいつも通り。だから俺もいつも通りに振る舞う。