第9章 響く四重奏曲
「いやいや、有り得ねぇだろぃ。昨日あれだけ嫌がってたし…」
『………』
「「…?」」
『………悪い?』
「マジっすか!?」
「ちょ、ま…!オイ真田!柳ぃー!」
まるで大事件でも起きた現場を見たような慌てぶりをする丸井君と切原君を見てると自然に笑いが込み上げてくる。ここもきっと賑やかな場所なんだろうな。
『あ、言っとくけど毎日じゃないからねー………って聞こえてないか』
やれやれ…氷帝も面倒見甲斐があったけど、こっちはこっちで面倒見甲斐が有りそうだなぁ。
※※※
-ピピィー-
『1組目休憩入って。2組目はコート。3~5組目は次のメニューに取り掛かって』
「姫先輩、ちょっとここ擦りむいちゃったんですけど…」
「俺も」
『じゃあ手当するからこっち座って』
智桜姫がテニス部のマネージャーになって1週間弱。練習は効率良く進むようになって部員の士気もかなり上がった。ただ問題があるとすれば、こうして些細な傷でも智桜姫に手当してもらおうと集まってくる。
「たわけ!そんな小さな傷で手当を求めるな!」
「「ひぃ!?すみません副部長!」」
まぁこうして弦一郎が追い払うのだが。無論、本人にそのつもりは無いのだろう。
「全く…ところで桜音」
『何、真田君』
「来週から始まる県大会の事なのだが…」
『県大会…?あぁ、そっか。もう5月だもんね!地区予選的なものは終わってるのか』
手帳を取り出して今後のスケジュールを確認しながらR陣の輪の中に違和感無く入り込んでくる。適応能力はかなり高いと見える。
『あー、都大会と時期がまるっきり被ってる…待てよ。県大終わったら関東大会だっけ?』
「そうだな。恐らく7月くらいに関東大会が始まるはずだ」
『んー、じゃあアタシ都大会の偵察に行ってくるよ』
一同「え!?」
『関東大会で当たるやも知れぬ都内の強豪校の偵察』
そう言うと自分のやるべき事が決まって満足したのか、手帳を閉じてベンチに向かう。
「ちょ、偵察って!大丈夫なのかよ!?」
『テニスの知識ってそんなに無いけど大丈夫!ちゃんと勉強してくるよ』
一同「勉強…」