第6章 引力の行進曲
「見てく…」
と次女が玄関に向かおうした時だった。
「まーたあの子はいないのかね」
『叔母ちゃん!』
一同「ばばりんだー!」
「智桜姫ちゃん、鍵開けっ放しよ。駄目じゃない」
『え?あ、ごめんなさい』
夜いつもランニング行くからそのクセで鍵閉めてなかった。
『お母さんなら帰ってきてないよ』
「アンタに用事があったからいいわ」
『アタシ?』
あぁ、転入先の学校の事と編入試験の事だろうか。
「これ、学校の案内書。手続きは済ませておいたわ」
手渡された資料を見て思わずレシピ本を落とす。
「何?どうしたの?」
『あー…なんでもない』
「編入試験は来月の二週目の日曜日。貴女なら大丈夫だと思うけど…私的には満点以外有り得ませんからね」
『う…あ、はい』
「それからコレは生活費の足しにしなさい。どうせあの子マトモに働いてないんでしょ」
と封筒を押し付けられる。
「絶対にお母さんに言っては駄目よ。アテにするから」
『うん、有難う…ごめんなさい』
「貴女が謝る事じゃ無いわ」
そう言って軽く頭を撫でてくれた。
※※※
病室の静かな昼下がり。不意に扉をノックする音が響く。こんな時間に誰だろうと思考を巡らせる。部員達じゃ速すぎるし、家族は午前中に来た………となると。
『こんにちわ』
やはり彼女だった。でも少しって言うかかなり早い気がする。
『テスト期間で授業が昼までなので…頼まれ事を果たしにってゆーか………』
「お願いするよ」
俺が先日頼んだお願い。それは勉強を教えてくれ、と言うお願いだった。勉強は同じ学校の人に教えてもらった方が良いんじゃないか?って言われたけど会うための口実として、他校の勉強法も知りたいと言ってみた。
『本当にアタシで良いんですか?』
「うん」
『むー…じゃあ英語以外は…』
「英語苦手なんだ?」
『苦手ですね。一夜漬けの感覚タイプなので人様に教える事は出来ないんですよ』
一夜漬けの感覚タイプってある意味天才じゃないと出来ない芸当だと思うけど、そこは黙っていよう。
『まぁコチラとしても勉強になりますし宜しくお願いします』
「こちらこそ宜しくお願いします、桜音先生」