第6章 引力の行進曲
-ねぇ、一つお願いがあるんだけど…聞いてくれるかい?
その甘い微笑みが、甘い囁きが、甘い声色が…
『頭から離れないぃぃいい………』
「何や姫さんどないしたん?」
『え?やだテストの事?』
『ちゃうわい!』
「おー、えぇ突っ込みやん」
いやテストの事も1割くらいはある。でもテストなんてアタシにとっては、その気になれば朝メシ前な訳で。2割は編入試験の事。何処に転校するかもまだ分かってない。残りの7割は幸村君からのお願い事ってゆーか頼まれ事ってゆーか…アタシなんかでいいのだろうか?つーか何故アタシ。
「月末から学年末テスト始まるやろ?」
『ソーデスネ』
「せやから今週から部活休みやろ?」
『ソウデスネ』
「マネージャー、分かってると思うけど赤点取ったら…」
『ひぃぃい!!それ言わないでぇ…数学ワカラナイ英語イミフメイ地理歴史含めた社会もワカラナイ国語なんて漢字読めない理科だって実験しか出来ない』
「………壊滅的やな」
そんなやり取りを耳にしながらオヤツの雑誌を開いて携帯を開いて調べ物をする。
『パコソン室行ってパソコンで調べた方が早いかな』
「壊滅的なマネージャーと違って姫さんは余裕やなぁ…何やそのデザートのクッキングブックは」
『ちょっとオヤツのレパートリー増やそうと思って。簡単定番な焼き物しか出来ないから』
普通に料理は得意部類だと思うんだけど、ぶっちゃけお菓子作りは壊滅的だったりする。数々の失敗を経て漸く焼き物だけは上手く作れる様になったのが、だいたい去年の秋くらいだろうか。
※※※
『さて』
狭くも無く広くも無いキッチンに材料と調理器具を並べてレシピ本と睨めっこをする。
「お姉ちゃん何作るの?夕飯後のオヤツ?」
「ねぇね、おやつ!」
『そうね!簡単そうなプリンに挑戦したいと思います』
一同「わーい」
と周りで舞い上がるキョーダイ達。まぁ95%の確率で失敗するでしょうが。だいたい初めてのお菓子作りっては高確率で失敗する。クッキーがマトモに作れる様になるまで多分何十回と焦がしたりした始末だ。たかがクッキーで。
-がちゃ…-
玄関の開く音がする。お母さんかな?いや、この時間にお母さんが帰ってくる事は無い。