第5章 決断の無言歌
目を伏せると長い睫毛が重たい影を作る。
『でも心の何処かでずっと此処に居れる様な気がしてたの。だけどやっぱり許してもらえなくて…ごめん………』
何に対して謝っているのか。親友と言う間柄で何も相談しなかった事、私には智桜姫しか居ないのが分かってるから一人にさせてしまうと言う事。恐らくそれに対しての謝罪。
『私の方こそごめん………自分の事ばっかりで気付いてあげられなかった。いつもそうだよね』
『そんな事ないよ。実亞加が隣に居る事でだいぶ救われてたから』
困った様に笑う智桜姫に胸が締め付けられる。部活の事だって、両親の事だって何一つ気付いてあげられなかった。
『何処の学校に行くの?』
『さあ?それは叔母が決めるみたいだからアタシにはなんとも』
『そっか………私なら大丈夫だよ!智桜姫に守ってもらうだけの甘えん坊は卒業するようにするから!それに学校違っても隣接してるんだからいつでも会える!離れてもずっと親友』
『有難う。話せてスッキリした』
私と同じくらいの小さくて細い肩にどれだけのモノが乗っかってるのだろう。きっと私が智桜姫の立場ならとっくに壊れてる。
『気を付けて帰ってね!私はもう少し此処にいる』
『うん、部活頑張って!』
パタン、と扉が閉まって足音が聞こえなくなったのを確認してフェンスに背を預けたまましゃがみ込む。視界が霞んで地面に染みを作っていく。
『智桜姫…行かないで………一人にしないで』
声を殺して泣くつもりが、いつの間にか子供の様に泣いていた。
※※※
『実亞加………』
正門から屋上を見上げる。夕焼けの光が眩し過ぎて思わず鼻の奥がツーンってなった。
※※※
結局、彼女…桜音さんは1回だけ来たっきりで。気付けば1月の半ば。連絡先くらい聞いておけば良かったとか思いつつも親しい間柄では無いのにそれは失礼に値するかな、と考えたり。
-がやがや-
この騒がしい感じは部員達が来てくれたのだろうか?にしてもいつも以上に少し騒がしい気がする。
-コンコン-
「どうぞ?」
-ガラッ-
「体調はどうだ?幸村」
「うん、変わりないよ」