第5章 決断の無言歌
と真田が入ってきて、柳、丸井、ジャッカルと入ってくるけど仁王と赤也は入って来ない。扉の外で何やら話してるみたいだ。
「プリッ。幸村、土産じゃき」
「土産?」
「ほら、入って下さいよ!ささっ、遠慮なく!!」
『え、あ…ちょっと…』
「!」
赤也に背中を押されて入ってきたのは桜音さんで。肩に掛けてるスクールバッグの持ち手を握り締めながら気まずそうにコチラを見る。
『えっと…ご機嫌麗しゅう?』
-ぶはっ-
「いやいや何だよその挨拶!」
「ご機嫌麗しゅうって面白すぎるだろい」
「ピヨッ」
彼女の発言によって楽しく笑いが起きる。
『だって急に連れてこられても何も用意出来てないですし』
「急に?」
「病院の前を通りがかったところを捕獲した」
「捕獲って…」
『自宅がこの付近なのでいつも通ってはいるんですけど』
その様子はしゅんとする仔犬…いや仔猫みたいな感じだなって思う。猫は構われたくないって言うけど構いたくなる気持ちは分からなくもない。
「さて、我々は幸村の元気な姿を見る事が出来たからお暇するとしよう」
「そうじゃな」
「む!?何故だ!?まだ部活の報告が…」
「そうっすよ!」
「いいから来い、弦一郎」
「赤也、お前もじゃき」
「「えっ!?えー!?」」
変な気を利かせてくれて病室には俺と彼女の2人っきり。廊下の騒がしさも遠ざかっていき、静まり返る病室。ふと窓の外を見ると茜色から紫色の綺麗なグラデーションが空に広がっていた。
『具合、どう?』
沈黙を破ったのは彼女。
「変わりないよ」
『そう…』
「まだ病名とか分からないんだけど………もしかしたらテニスが出来なくなるかも知れない」
『………え…』
「でも俺は諦めない。必ずコートに戻る」
そう言って彼女を見詰めると切なそうな微笑みを浮かべる。
『幸村君は強いね!………逃げたアタシとは大違い』
「逃げ『ううん!なんでもない!』………」
一体彼女は何から逃げたと言うのだろうか。
「…ごめんね、ウチの部員達が」
『大丈夫、帰り道だから』
「ねぇ、一つお願いがあるんだけど…聞いてくれるかい?」
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